いなぎ駅前クリニック

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院長コラム

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COLUMN渡る世間は風邪ばかり? 第1回勉強会の内容紹介

鼻水が出てきたとします。日常にはないお体の変調ですね。さてこの時、「風邪ひいた」と薬を飲もうと思う方は少なくないと思います。市販薬よりは医者の薬の方が治ると思われるかたもいらっしゃると思います。その思考の根底にあるのは「風邪は万病のもと」という言い伝えがあるからだと思います。
 では、本当に「風邪は万病のもと」で早く体の失調(症状)をとらなければ本当に万病になってしまうのでしょうか? だから早く薬を飲まなければいけないのでしょうか? 風邪薬は風邪を治す薬なのでしょうか? 今回はそのアタリのお話です。

風邪とはどういう病気でしょう?

ウイルス

  • 1.鼻、喉、気管支といった空気の通り道の炎症による病気の総称です。つまり正式な医学的な病名でなく特定の病名ではありません。
  • 2.原因となる病原体の95%以上はウイルス感染でその種類は200種以上あるといわれています。そして、人類はウイルスに対しては治すための特効薬を手にしていません。
  • 3.しかし、4~5日、長くて7日で薬がなくとも自然に治る病気です。

では、それぞれを解説いたしましょう。

1.空気の通り道の炎症による病気(上気道炎)

空気の通り道の炎症ですから、少しの鼻水も喉が痛くても激しい咳が出ても“風邪”と言って問題ありません。ですから花粉が原因で鼻腔にアレルギーという炎症をおこす花粉症も“風邪の1つ”です。 つまり、“風邪”と判断される症状に対しての医学的な病名が、アレルギー性鼻炎(花粉症)であったり咽頭炎であったり扁桃腺炎であったり気管支炎や肺炎であったりするのです。 すなわち、上気道であればどこのどんな症状にでも使える万能の病名なのであって逆に言うといい加減な病名です。 よってインフルエンザは“冬場に大流行する風邪”ということなんです。 …しかしこんないい加減な病名を医者が使っていいの?っていつも思っています。なにしろ胃潰瘍や胃がんや胃のポリープの患者さんに「アナタは胃の病気にかかっています」と言っているのと同じなのですから。

さて、風邪は“空気の通り道の病気”と定義されていますから、下痢や嘔吐などの消化管の症状に対してのいわゆる「おなかの風邪」という診断名(表現)は存在しません。 冬期はウイルス性腸炎が流行ります。上気道炎(風邪)は流行りやすい=流行りものは風邪=流行っている嘔吐下痢症だから「おなかの風邪」と言ってしまっているのです。「冬季だからノロウイルスかも」と言われるのと「おなかの風邪だあに」と診断されるのと、どちらが家族を含めた他の人への感染を予防しようというアクションを起こすでしょうか?

2.95%以上はウイルス感染でその種類は200種以上。しかも特効薬はありません。

風邪を起こす病原体は95%がウイルスで残り5%が細菌などと言われています。ですから、ほとんどの風邪はウイルス感染ですから特効薬(治す薬)は世界中どこを探してもありません。ウイルスと細菌は全く別のモノです。ウイルスは細菌内でも増殖できます。抗生物質は細菌に対して有効ですので、「風邪ですね」と診断されて風邪薬とセットのように処方された抗生物質は95%の確率で効いていないということです。

では、治す薬がないのにどうして治るのでしょうか? インフルエンザも自然に治る病気なのですが、ウイルスに対して高まってくるあなたの抗体(免疫力)によってウイルスがやっつけられるからなのです。十分な免疫力が高まるのに多くは4~5日を要します。細菌が原因であっても体の免疫力で多くは治っていきます。ですから“風邪”と診断されるのであらば95%以上は自然に治るのです。薬は自然に治るまでの間に症状を和らげてくれているだけのモノなのです。

3.4~5日、長くて7日で薬がなくとも自然に治る病気

風邪

さてCMでは、風邪薬とやらを飲むとママは翌日治って元気になって「治ります」「治せます」とビジュアルしていますね。妙ですよね。先に述べましたように、風邪薬は上気道炎の症状を和らげるいくつかの薬が配合されているだけのものですから。画面の端っこにあっという間に消えますが「諸症状の緩和に」と小さく本音を出していますので法律上は問題なし。対症療法薬でしかないのに治す薬とビジュアっていますが、この文言でCMは詐欺ではなくなっているようです。実はこれらCMの氾濫が「風邪は薬で治すもの」という考え方をニッポン津々浦々に定着させてしまっているのです。

さて、医者の薬も同じです。医者が処方するのですからナニか効きそう(早く治りそう)ですがところがギッチョンチョン。 市販の風邪薬を2~3日飲んでも良くならないから医者のところに行く…薬を処方される…次第に良くなった…さすが医者の薬! このよくあるストーリーは、実は医者の薬が効いたのではなく自然に良くなる時期(抗体=免疫が十分に高まってくる4~5日後)に単に医者の薬を飲んでいただけなのです。チャンチャン!

ただし、ウイルス感染で防御機構が一時的に弱くなった体の部分に細菌感染が加わることがまれにあります。これを二次感染といいます。相手が細菌なので抗生物質は早く治せる武器となりえるのです。ウイルス性上気道感染症から細菌性感染症に移行し、肺にソレが起こると風邪から細菌性肺炎ということなり「風邪から大病になった」といわれるのです。残念ながら二次感染を起こすかどうかは初診時には予測できるはずがありませんし、だからと言って二次感染の予防にという考えで風邪ひいたから初診時から抗生物質をセットにという処方は慎むべきです。なぜなら二次感染は低頻度なのですから。

さて、症状は長引いたら…。二次感染等を考えるか、同じ症状を起こす他の病気を考えるべきです。

例えば、鼻水やくしゃみが続いたらアレルギー?花粉症デビュー? 咳が続いたら喘息(最近は咳喘息という病名を耳にしますね)やアトピー咳嗽や肺炎ばかりか、結核、肺がん、最近話題のCOPDなどの慢性呼吸器疾患を考えなくてはならなくなります。なにしろ、そういった大病の咳も“単なる咳”です。“肺がんの咳”はこんな咳にナリマス、はありません! ですから3週間以上続く咳は長引く咳風邪と判断するのではなく、レントゲンを撮るべきなのです。

さてさて基本的に自然に良くなる病気が風邪ですから、「風邪」と診断した際には万病のもとにはなりません。つまり最終的に大病を診断された場合、その初期症状が軽症なゆえに患者さんも医者も「風邪」と言っているだけですし、あるいは先に述べましたが初診時に予測できない二次感染を経過中に起こしてしまったからです。

しかし、大病を初期の段階で見つけられることがあります。ですから「ちょっと喉が痛い」でも溶連菌を見逃さないように診察しなければならないですし、咳が出ていなくて発熱だけであっても肺の聴診に手を抜いてはいけないのです。どんなに軽症であっても大病の初期の可能性があるのですから、ご心配でしたら遠慮なく受診してくださいませ。

しかしながらこの世は「風邪は万病のもと」がはびこったままです。「風邪は万病のもと」をそのままにしておくと経済は……鼻水が出た→風邪ひいた→大変だ!万病のもと→些細な症状にも薬→早く治ってよかったね→万病にならずにすんだ、の流れで最終的に早めのパBロンとなり、総合感冒薬の市場は(CMでは治せますと国民をだまして)年間1000億円市場です。

雑談 耳知識コーナー

薬

「鼻かぜに…」…鼻水止めの有効成分はd‐クロルフェニラミンが多いです。アレルギー 鼻炎とかのアレルギー疾患に用いていた薬です。治す薬ではありませんね。ひどいもので はビタミン誘導体なんてものも有効成分に記載されていたりして、鼻水とビタミンの関係 って…??です。 医者の薬の鼻水止めも抗アレルギー剤です。

「のどの痛みや発熱に…」消炎解熱鎮痛剤…トラネキサム酸とやらは医者が処方すると トランサミン。アセトアミノフェンはカロナール。前者は私自身が内服しても全然効果を感じません。ロキソニンの方が楽になります。単に痛みをとる熱を下げるだけのものです。

「咳止めに…」…市販の咳止め風邪薬にちょくちょく配合されているエフェドリン。 末梢気道狭窄が原因の咳へは交感神経刺激薬のエフェドリンが鎮咳薬として有効ですので 配合されています。エフェドリンは花粉症などの鼻詰まりにも有効。このエフェドリン、 漢方薬の麻黄から抽出された交感神経刺激薬。日本人の薬学者が抽出精製いたしました。 のちにヒロポンの原料となり、最終的には覚せい剤まで姿を変えることができる。無論、 市販の風邪薬にそんな作用はありませんので安心して内服してください。

ということで、鼻水が出たからといっても「万病のもと」にはなりませんのであわてないでください。鼻水への薬は治す薬ではありませんし、そもそも風邪(ウイルス感染)を治す薬はないのですから…。でも、軽微な症状であっても大病の初期症状の可能性もありますので、遠慮なく受診してくださいませ。